沿岸?陸棚域における海洋研究の最前線をゆく
※掲載内容は執筆当時のものです。
海流が運ぶモノの行方や海の成り立ちから推し量る地球環境の未来
地球の気候は、熱の運び手である海流と風によって大きく左右されます。地球生態系の成り立ちを理解するためには、海流や風の成
り立ちを理解しておく必要があります。皆さんが何気なく街に捨てたゴミは、川から海に入り、そして海流によって運ばれることで、地球のどこかで誰かの迷惑になっているかもしれません。
私たちの研究室では、海流の成り立ちや、運ばれるモノの行方を研究することで、地球環境の現在と未来を考えています。このような分野を海洋物理学といいます。海にはどんな流れが存在するのか、それはなぜか、どれだけのモノをどこまで運ぶ力を持っているのか、そして、これらの事実は将来どのように変化しそうか。全てに答えを見出すのは難しいことですが、答えを粘り強く探し続けることが私たちの仕事です。
研究の特色
磯辺研究室は、沿岸や陸棚域など、人間の生活圏に近い海洋の研究を得意とします。この分野では、我が国のトップランナーとしての研究実績を上げていると自負しています。特に現在、力を注いでいるテーマの一つに、海岸漂着ゴミ問題があります。東シナ海を囲む各国から投棄されたゴミが海流に乗って運ばれ、日本の海岸に漂着する様子をコンピュータ?シミュレーションで再現し、ゴミ漂着予報を行う研究です。私たちの研究室では、世界初の漂着ゴミ予報システムを開発し、ホームページ上で試験運用しています。四国南岸で枝分かれした黒潮の一部が瀬戸内海に侵入する「急潮現象」の研究プロジェクトも、私たちの研究室が中心となって進行中です。さらに、海が気象を変化させ、そして変化した気象が海に影響を与える大気?海洋結合相互作用も、私たちが取り組んでいるテーマです。
そして、これらの研究に使う道具は、頭と体力、根気、船、コンピュータ、アイデアや数式を書きとめる紙と鉛筆、仲間と議論するためのホワイトボード、そして何よりも、地球を知りたいという知的冒険心です。
研究の魅力
海洋研究は、方法に捉われない自由な発想を歓迎します。ある現象を解明したいとき、船に乗って自らの手でデータを取る人、コンピュータの中に作った仮想海洋を解析する人、紙と鉛筆だけで理論を組み立てる人、あるいは一人で全部やっちゃう人。たとえば私たちの研究グループでは、気球に取り付けたデジタルカメラで海岸を空撮し、海岸ゴミの漂着数を計量しています。それぞれが自分の得意な手法を持ち寄って、サイエンスの発展に寄与できる、それがこの研究分野の魅力の一つです。?
研究の展望
パフォーマンスの向上著しい昨今のコンピュータや、膨大な観測データの利用を容易にした高速インターネット環境、人工衛星観測網や海洋自動観測システム(アルゴといいます)の発展によって、現代海洋学の在り方は大きく変わりつつあります。次々と現れる新しい手法によってパワーアップしてゆく当研究分野は、地球温暖化や越境汚染といった今日的な環境問題を考えるにあたって、主役としての役割を期待されています。
この研究を志望する方へ
皆さんが高校までに行ってきた勉強は、一歩一歩と階段を上がるようなものです。高くて先が見えない階段でも、あきらめずに登っていけば、誰でもいつかは頂上にたどり着くでしょう。これに対して研究とは、飛び石伝いに川の向こう岸に渡るようなものです。階段で鍛えた跳躍力は重要ですが、それだけではなく、安定した石を見極める目(よいテーマの選定、確かな研究の全体構想)や、離れた石に跳ぶ勇気(自由な発想)、そして滑ったりしない運も必要です。無事に渡り切った川向こうには、これまで誰も見たことのない知識の果実が実っていることでしょう。果てしなく広がる海洋を舞台として、私たちと一緒にサイエンスの川を超える冒険に挑戦しませんか。