植物を用いた食料生産の効率化のためには、植物周囲の環境が植物成育、特に可食部成長に及ぼす影響を知り、その知見にもとづいた環境調節を行う必要があります。この授業では、植物工場などの植物栽培施設内における物理的環境要素の制御方法と、それらが植物成育に及ぼす影響について学びます。

授業内容

本講義は、二人の教員が担当しており、取材日は藤内直道先生による講義でした。

授業は前回学んだことの小テストから始まります。受講生たちは、送付されたリンクやスクリーンに映し出された二次元コードから各自のスマートフォンやパソコンで回答フォーム(Forms)にアクセスして回答します。テストは5分程度で終了し、その場ですぐにFormsの集計結果を出せるので、映し出し、回答状況を共有します。名前は表示されませんが、選択問題であれば回答状況が円グラフで表されており、自分の回答の正誤の確認だけではなく、全体の中での理解度を意識できるなと思いました。
藤内先生は、授業の途中でもFormsを使いその場でクイズを行ったり、投影資料には、タブレットを活用した板書を行ったりと、授業の形を積極的にアップデートしている様子がうかがえます。

小テストの後、植物育成モデルについての授業に入りました。そもそも「モデル」とは何か。定義は「現実を簡略化したもの」で、模式図で表すことや式を立てることもモデルの一種。授業では、光合成のプロセスを取り上げ、昔ながらの光合成のプロセスを一つ一つ丁寧に式にして組み合わせていくモデルについて学んでいきます。これは、「説明モデル」に該当し、実際のメカニズムに沿って式を書き表します。式を作る際は、なるべく現実の現象を記述しきれるよう落とし込むことがポイントで、現実世界で影響が大きそうな要素をピックアップして作るようにとの説明がありました。例えば、トマトの育成において、分かりやすい現象を挙げると、日の入り方(高度や光量)、日が当たる時間などです。

「説明モデル」は、とりあえずデータをとってコンピュータに入力してみると結果を得ることができる機械学習モデルのような「記述モデル」と違い、現場のデータを見ながら組み立てるので、現実との乖離を避けられる傾向があります。授業では何が重要なのかに気づく必要があり、その重要な要素が集まって作られた要素がメカニズムに則って組み合わされている「説明モデル」を詳しく学んでいきます。

例に挙げられた、トマトの育成のために組み立てられたモデルの場合、最終目的は、収穫量予測や成長予測に使うことです。どのように環境整備をすれば収穫量が伸びるのか、どの時期に収穫できるのか、それが分かれば、その先の、収穫に係る労働力の最適配置が見えてくるなど活用は広がります。この話を聞いたとき、データに基づく管理が、現場に活かされることがしっかりイメージできました。

授業での専門的な学びが身近な社会で役立つということを体感してみてください。

教員からのコメント

 トマトなどの植物を栽培する温室では、露地とは違って、日射、温度、CO2濃度などの環境をコントロールすることができます。では、どのようにコントロールするのが良いでしょうか?それは植物に聞かないとわかりません。具体的には、光合成、蒸散、成長といった植物の反応が温室内の環境条件に応じてどのように変化するかを調べながら、それらの反応が良くなるように環境条件をコントロールします。この考え方を、スピーキング?プラント?アプローチ(SPA)と言います。私たちの研究グループでは、SPAを現場に実装するために、植物の反応をリアルタイムに計測する装置の開発と活用を進めています。

この授業では、そのようなSPAをベースとした温室環境コントロールを身につけるために、換気、暖房、冷房、CO?施用、遮光、補光といった環境制御の仕組みと、それらが植物に及ぼす影響を学びます。そのときに、環境や植物反応を具体的な数字と単位で書き、それらの関係や変化を式で表します。環境や植物反応は目では見えませんので最初は難しく感じる学生が多いかもしれませんが、量や式で表せることを学ぶと世界を見る目が変わるはずです(少なくとも私は学生時代に変わって感動しました)。また、農業に限らず、データに基づいた行動というのは、皆で協力して社会を良くすることに貢献します。

温室環境コントロールについて学ぶことをきっかけに、工学的な視点で物事を捉えることを学生には身につけてほしいと考えています。

受講学生のコメント

農学部食料生産学科 3年生 佐々木 桜さん

この授業では、植物工場などの施設園芸における環境制御の考え方とそれが植物の生育に与える影響、植物の生育プロセス等について学びます。

温室内外の環境条件や植物の生育状態に基づいて環境制御を行うことで、植物にとって最適な環境を用意することができ、効率的な生産につながると言えます。植物の生育に関わる環境には温度や光強度、CO?濃度など複数の要素が含まれ、それぞれを制御する必要があります。

多くの変数が出てきて複雑に思われますが、この授業では各回で環境要素を一つずつピックアップし、制御装置の例から原理まで丁寧に紐解きながら教えていただけます。換気をたくさん行えば室内のCO?濃度は低下するなど、経験や勘によってイメージしてきたことを、シンプルな数式で表すことができると分かったときは興味深く感じられました。植物工場に関心のある方、効率的な食料生産を考えたい方はぜひ履修してみて下さい。

農学部食料生産学科 3年生 山田 晏菜さん

植物環境工学では、植物工場などの植物栽培施設内における物理的環境要素の制御方法とそれらが植物生育に及ぼす影響について学びます。具体的には、植物栽培施設内の換気や暖房?冷房、補光などのような環境制御の方法や、それらによる植物へのストレス減少の効果についてなどで、生育に良い方法だと分かったり、逆に、この方法はこの植物の生育にはあまり良くないと分かったりなど、植物生育に対してどのような影響が与えられるのかを学ぶことができます。

今後、植物工場の運用が盛んになっていく中で、この環境制御技術は必要なものとなってくると思いますので興味がある方は是非履修してみてください。

右:佐々木さん 左:山田さん