日本化学会が、2012年からこれまでに発行した学術雑誌の注目論文を集めた「CSJ Journal Report Vol.1」を発行し、大学院理工学研究科の佐藤久子教授らがChemistry Letters誌に発表した論文がHot Articleに選ばれました。
今回選出された論文は、世界で初めて粘土鉱物中のCsイオンの状態を原子レベルで調べたEditor’s Choiceの論文で、東京大学大学院理学系研究科の小暮敏博准教授、東邦大学理学部の山岸晧彦訪問教授らとの共同研究です。
2011年の福島第一原子力発電所の事故によって、東日本広域の土壌に放射性セシウムによる放射能汚染が発生しました。その後の土壌学的研究により、セシウムは陽イオンとして土壌中の粘土鉱物に吸着され、農耕地では地表面数センチのところに留まっていることが示されています。現在、除染は主に地表面の除去によって行われ、その結果多量に貯蔵された汚染土壌の減容化が緊急の課題となっています。粘土化学分野では、ある種の粘土鉱物(バーミキュライトや風化雲母等)がセシウムイオンを非常に強く吸着することは知られていましたが、その構造的な要因については明らかではありませんでした。
そこで、佐藤教授らは、原発事故以来土壌汚染問題を粘土化学の立場から解決することを目的に、セシウムイオンと粘土鉱物との相互作用について基礎研究を積み重ねてきました。その結果として、粘土鉱物中のセシウムイオンの吸着状態を高分解能電子顕微鏡を用い原子レベルで明らかにしました。
今後は、基礎研究とともに、汚染土壌の浄化を目指した研究を実施していく予定です。<理学部>
論文名:XRD and HRTEM Evidence for Fixation of Cesium Ions in Vermiculite Clay
Chem. Lett. 2012, 41, 380-382
粘土鉱物に取り込まれたCs+イオンの構造(高分解能電子顕微鏡写真)
?隣接した粘土層が横にずれて,上下からセシウムイオンを表面の微細な穴に挟み込むような構造をとる