好熱好酸古細菌(Thermoplasma acidophilum)は、温度が55℃以上、pH2以下の高温?酸性環境に生息し、硫酸を含む産業廃棄物の分解にも関わっています。貧栄養下では多細胞体を形成し、DNAを包むヒストン様タンパク質を保持するなどの特徴もあり、真核生物の起源ではないかとする説もあります。
2013年に、本学の研究グループが、この微生物のtRNAを分析してみたところ、13位と15位の2か所に、アーケオシンという特殊な修飾ヌクレオシドが存在することを見出しました。アーケオシンは、この微生物が高温環境で生きていくために、tRNAの立体構造を固めているようです。どのようにして、この複雑な修飾ヌクレオシドを2か所に合成しているのかが分かっていませんでした。
理工学研究科博士課程3回生の河村卓哉さん、平田章講師、堀弘幸教授のグループは、岐阜大学、群馬大学のグループと連携して、異なる古細菌Thermococcus kodakarensisの遺伝子組換えシステムを駆使し(図1)、Thermoplasma acidophilumでは、アーケオシン合成の第一段階目反応であるtRNA グアニン?トランスグリコシラーゼ(図2)が鍵因子となっており、最終産物であるアーケオシンが2か所に生合成されることを明らかにしました。本研究は、高温酸性環境中で、どのようにして微生物がタンパク質を合成しうるのか、その一端を解明したと言えます。
この研究成果は、高いインパクトを誇る核酸科学の専門誌Nucleic Acids Research電子版に掲載されます。
図1:古細菌の遺伝子組換えシステムでThermoplasma acidophilum tRNA グアニン?トランスグリコシラーゼを発現させたところ、tRNAの二か所にアーケオシンが合成されていることを示す質量分析の結果。
図2:tRNA グアニン?トランスグリコシラーゼの立体構造。Thermoplasma acidophilumの酵素には、赤の三角で示した領域に特殊な挿入配列が存在する。