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農学部の渡辺誠也准教授の研究が米国科学誌PLoS Oneに掲載されます

 農学部の渡辺誠也准教授が、「虫こぶ」を作る細菌の植物感染のしくみの一端を解明し、米国科学誌PLoS Oneに掲載されます。
 アグロバクテリウム菌には、農作物に根頭癌腫病や毛根病など引き起こすものが多く含まれています。この菌が植物に感染すると、まず自身が持つ巨大プラスミド(Tiプラスミド)の中のT-DNA領域が、vir遺伝子(病原性遺伝子)の働きにより植物の核ゲノム上に組み込まれます。この領域には植物ホルモンの合成遺伝子が含まれており、植物ホルモンの過剰生産で組織細胞の異常増殖がおき、根に「虫こぶ」が形成されます。また、T-DNA領域にはオピン(オパイン)と呼ばれる特殊なアミノ酸誘導体を合成する遺伝子も含まれています。この遺伝子の働きにより、虫こぶ内では植物の栄養源(L-アルギニン、α-ケトグルタル酸、ピルビン酸)を使ってノパリンとオクトピンなどのオピンが常に合成されます。植物自身や一般的な微生物はこのオピンを栄養源にできませんが、アグロバクテリウムはそれが可能です。つまり、アグロバクテリウムは植物を生かさず殺さず飼い慣らし、オピンを栄養源に虫こぶ内で独占的に増殖しているのです。これは、「植物に対する遺伝的植民地化」と呼ばれています。

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 オピン合成酵素は逆にオピンの分解もできますが、この遺伝子は植物ゲノム上にあるのでアグロバクテリウム自身の中では働きません。これに替わり、植物には移らない別のTiプラスミド上に存在するnoxA-noxBooxA-ooxB遺伝子が、ノパリンとオクトピンの分解酵素ではないか、といわれてきました。この酵素は膜に存在しているようでアグロバクテリウムから取り出すことは困難で、また大腸菌などを宿主として組み換えタンパク質としても機能的に発現せず、遺伝子発見から20年以上たっても確かな証拠は得られていませんでした。そこで渡辺准教授らは、シュードモナス?プチダなど普通の土壌細菌もNoxOoxに似た遺伝子を持つことに注目しました。そして、この遺伝子をシュードモナス?プチダ自身を宿主として作らせ、機能を保持した完全な組み換えタンパク質を得ることに成功しました。  人工電子受容体(PMS/INTやPMS/NBT)存在下でこのタンパク質にノパリンを与えると、顕著な脱水素酵素活性を示しました。驚いたことに、この酵素は(2つではなく)3つの遺伝子がコードする異なるサブユニットからなっていました。また補因子としてFADやFMN、2Fe-2S鉄硫黄クラスターを含み、補酵素NAD(P)H依存性の合成酵素とは全く異なっていました。L-アルギニンとα-ケトグルタル酸は脱水素酵素活性を大きく阻害することから、反応生成物がこの2つであることが分かります(合成酵素の逆反応)。また、窒素固定細菌の一種からはオクトピンに特異的に働く酵素も見出しました。

図2.新たに発見したオピン脱水素酵素の性質block_69192_01_M

(A)SDS-PAGE
 3つのサブユニット(α,β,γ)が見られる。
?(B)UVスペクトルと精製酵素の写真
 酵素は黄色であり,スペクトルはフラビンを含むタンパク質に特有のものである。
(C)ゲル内活性染色
 人工電子受容体であるPMS/INTとPMS/NBT存在下でノパリン(左と中央)とオクトピン(右)を基質として与えた。
(D)サブユニット構造と補因子配置の模式図
 全体構造はこれが4つ集まったα4β4γ4である。

 

 アグロバクテリウムとは異なり、シュードモナス?プチダは植物との直接的関係はほとんど知られていません。また、窒素固定細菌は植物に(虫こぶではなく)根粒を形成しますが、これは両者にとって利益のある共生関係です。オピン分解酵素がアグロバクテリウム以外の細菌にも広く分布している事実は、オピンが微生物生態系でこれまでに考えられているよりも大きな役割を果たしている可能性を強く示唆するものです。
 本研究成果は、東洋大学食環境科学科生体分子制御研究室の福森文康教授との共同研究であり、米国科学誌PLoS Oneに受理され(平成27年9月4日(金)(米国東部時間))、近日中にオンライン版で公開されます。 

掲載誌

PLoS One DOI: 10.1371/journal.pone.0138434

論文題目

Seiya Watanabe, Rui Sueda, Fumiyasu Fukumori, Yasuo Watanabe Characterization of Flavin-containing Opine Dehydrogenase from Bacteria.
(和訳)フラビンを含む細菌由来のオピン脱水素酵素