平成27年10月17日(土)、科学イノベーション挑戦講座を受講している中学生が、コンピューターと分析機器を用いて化合物の同定に挑戦しました。
科学イノベーション挑戦講座は、国立研究開発法人科学技術振興機構の次世代科学者育成プログラムメニューB採択事業として3年目の実施になります。
今回は、中学生がコンピューターによる仮想的な化合物の分析法を使い、化合物の構造の決定に挑戦しました。分子は私たちの身の周りに存在していますが、目で見ることはできません。例えば、空気の中には窒素分子や酸素分子が存在していますが、私たちは普段その存在を意識することはありません。しかし、目に見えない酸素分子が一定濃度以下になると、生物は生きていくことができなくなります。つまり、目に見えない小さな存在が、私たちの世界を形作っており、その性質がこの世界の物質の性質を決めているのです。そのため、化学者は分子の構造に興味があります。目に見えない分子の形をどうやって調べるのか、そして、その構造をどのように想像するのかは、化学者たちが長い時間をかけて調べ上げ、話し合って作り上げた理論で説明されます。
そこで、本講座では、最先端の化学者が、分子をどのように見ているのかをコンピューターを使ってイメージし、実際の分析結果と比較しながら、コンピューターケミストリーによって分子の構造を見る方法を学びました。
本講座では、昨年度からコンピューターケミストリーとして、iSpartan(Wavefunction Inc.)を利用しています。このアプリはiOS上で稼働し、平面に描画した分子構造を簡単に立体的に表すことができます。このアプリを利用することで、分子の構造を平面ではなく、立体的な構造として捉え直すことが可能になります。講座では、アプリを用いて水分子、アンモニア分子、メタン分子の立体構造を描画し、平面構造と比較して、紙面上に描画された分子構造から立体構造を予想する方法を考えました。次に、赤外吸光光度計で測定した赤外吸収スペクトルをコンピューターシミュレーションによる赤外吸収スペクトルと比較して、分析化学は分子をどうやって見ているのか、分析化学で見える数値の大小が何を意味しているのかを考えました。
まず、グリシンとメントールを全反射測定装置付赤外吸光光度計で測定し、iSpartanによるシミュレーションによる赤外吸収スペクトルと比較して、二つの化合物を同定しました。そして、次に5つの試料が、6?アミノヘキサン酸、ε?カプロラクタム、テトラシアノエチレン、ジフェニルアミン、塩化ナトリウムのどれにあたるのかを、測定スペクトルとシミュレーションスペクトルを比較しながら同定しました。本来であれば、大学教育専門レベルの内容なので、中学生は苦労していましたが、すべての化合物を同定することに成功しました。
本講座の実施によって、中学生は目に見えない分子を見る方法を知り、分子を頭の中でイメージし、それを他人と共有する方法としてコンピューターケミストリーの有用性を学びました。